【本のご紹介】『連ちゃんパパ』というマンガのドイヒーなストーリーに隠された本当のテーマ

今回は今年の春に突如ネットで話題になったマンガをご紹介します。
『連ちゃんパパ』(ありま猛)という作品をご存知でしょうか。1994年から4年間ほどパチンコ雑誌で連載されていたものですが、当時世間で話題になることはなく、もちろん私も全く知りませんでした。
ところが緊急事態宣言中の今年5月、この作品を無料配信(7月で終了)していた「マンガ図書館Z」のサーバがダウンするほどアクセスが集中したことがネットニュースで取り上げられました。

ありま猛『連ちゃんパパ』がなぜか突然ネットで流行 「スナック菓子感覚で摂取できる地獄」など悪夢のような感想が集まる – ねとらぼ
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2005/13/news126.html

早速興味本位で私も読んでみたところ、世評違わぬ主人公のクズさ加減とドイヒーな人間模様に目が離せなくなって全43話一気に読んでしまいました。
あらすじはこうです。高校教師の主人公(日之本進)のもとに突然借金取りが現れます。そこで妻の雅子がパチンコで300万円借金して失踪したことを知り、息子の浩司(小学生)と妻を探しに旅に出ますが、旅費を稼ぐために初めてパチンコに手を出したところ本人もハマってしまって…という何とも救いのない展開です。
主人公の進は生徒の信頼も厚い教師だったのですが、泥沼にハマってしまってからの人格破綻ぶりが凄まじく、息子の浩司があまりにも気の毒なため借金取りが浩司だけには情をかける(その理由は作品中で明かされます)ほどです。
そんなひどい話のどこが面白いんだ、と思われるかもしれませんが、1ミリも同情の余地のない登場人物の浮き沈みというのは他人事としては面白く読めるもので、そこに唯一感情移入できる浩司という存在が話を繋ぎ止めているため、ついついつづきが読みたくなってしまうのです。

作者のありま猛さんはどうしてこのような作品を描いたのでしょうか。その答えがご本人のインタビューにありました。

ネット激震の「邪悪」な主人公はこうして生まれた 『連ちゃんパパ』作者・ありま猛インタビュー
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2006/14/news005.html

ありまさんは漫画家になるべくあだち勉(あだち充の兄)さんに入門するのですが、かなり破天荒な人だったようで、この師匠が主人公・進のモデルだったそうです。この作品の第一のテーマはギャンブル依存ですが、師匠と本人のギャンブル経験があの妙なリアリティに繋がっていたことがわかります。
そして、ありまさんの児童養護施設で育った経歴がインタビューで明かされており、そこで息子の浩司は作者の自己投影だったことに気づかされます。ありまさんは自身の作品テーマは常に「家族」だと明言していますが、最低な人たちの最低な行為が連続して描かれているにもかかわらずサーバがダウンするほと閲覧者が絶えなかった魅力とは、本人にしか描けない何かがテーマに籠められていたからなのかもしれません。

『連ちゃんパパ』は9月に書籍化され新刊本として本屋さんで入手できるようになりました(全4巻)。電子書籍(有料)でも読むとができます。秋の読書のいかがでしょうか。

『連ちゃんパパ』 ありま猛 KADOKAWA
https://www.amazon.co.jp/%E9%80%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%83%91%E3%83%91-1-%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE-%E7%8C%9B/dp/4041107792/ref=sr_1_2?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E9%80%A3%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%83%91%E3%83%91&s=dvd&sr=1-2-catcorr

さて、またまた性懲りもなく私の勝手な深読みを蛇足ながら付け加えますが(ウザいと思う方は例によって読み飛ばしてください)、本作は映画『競輪上人行状記』(西村昭五郎監督、原作は寺内大吉『競輪上人随聞記』)の影響を受けているのではないかと思っています。
小沢昭一演じる主人公の伴春道は熱血中学教師だったが、家出した教え子のサチ子、実家の寺の相続問題と死んだ兄の嫁ミノとの関係など様々な泥沼を経て僧侶の身で競輪にハマってしまいます。最後は僧侶姿の予想家となり元教え子のサチ子と旅に出るという滅茶苦茶なストーリーなのですが、これが妙な感動(特にラストシーン)を呼ぶ作品なのです。
教師がギャンブルで身を持ち崩す、というモチーフが似ており、逃れられない人間の業のようなものが描かれているところに共通点を感じます。
今は中古DVDでしか入手できない状況ですが、こういう作品がお好きな方にはご満足いただけると思いますので諸々手を尽くして御覧になってみてください。