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餃子日本一と家計調査④(餃子三国志編)

前回は宇都宮と浜松の激闘の軌跡を追ってみましたが、闘いは落ち着くかに見えたところで、コロナ禍に新たな挑戦者が登場します。それは宮崎市です。

2021年
1位 宮崎市  4,184(0.47%)
2位 浜松市  3,728(0.39%)
3位 宇都宮市 3,129(0.33%)
ーー 全国平均 2,093(0.22%)

2022年
1位 宮崎市  4,053(0.45%)
2位 宇都宮市 3,763(0.37%)
3位 浜松市  3,434(0.36%)
ーー 全国平均 2,017(0.21%)
※カッコ内は全食品の支出に対する餃子の割合

コロナ禍で消費が落ち込む中、餃子の街ビッグツーが手を取り合ってのワンツーフィニッシュになるか、というところに割って入って来たかに見える宮崎市ですが、実は突如現れた一発屋のダークホースではなく、虎視眈々と王者を狙う第三極にずっと居続けた存在でした。
2000年からのデータを眺めてみますと、宮崎市はこの23年間で5位以内は18回、3位以内は8回、着順集計(2-1-6-4-5-着外5)という好成績を収めています。2008年以降の平均支出額2,927円は宇都宮市の4,220円、浜松市の4,068円に次いで3位です。ただし、宇都宮と浜松とは1,000円もの差があり、ブロンズコレクターの域を出ないようにも見受けられます。
しかし、支出率で見てみると少し趣が変わってきます。これまでも全食品の支出に対する餃子の割合、ということで支出率を出してきましたが、宮崎市も含めて見直してみましょう。2008年以降の平均で比べると宇都宮市0.45%、浜松市0.44%に次いでの0.35%でやや水をあけられていますが、ランキングで比べると、過去23年間で5位以内を外したのは2012年の1回(8位)だけで、着順集計では(5-6-10-1-0-着外1)という高いアベレージを誇っています。支出率1位はまず2000年に宇都宮を押さえて取っており(支出額では5位)、そこから2017年まで2012年以外は2位か3位をキープし続け、2018年に再び1位となっています(支出額では3位)。そして2020年の成績を宮崎市を含めて見直してみますとこうなります。

2020年
浜松市  3,765(0.40%)
宇都宮市 3,694(0.39%)
宮崎市  3,669(0.41%)

支出額で3市は僅差で並んでおり、支出率では宮崎市がトップになっています。支出率が高いということは食卓に上がる割合が高いということで、飽きずに食べる習慣がある、という推測ができます。
支出額より支出率の方が好順位になるということは、全食品の支出額がそもそも低いということも意味します。実は宮崎市の2008年以降の食費の平均は826,210円で52都市中ワースト2位なのです。因みに宇都宮市は947,863円(8位)、浜松市は928,608円(16位)、全国平均は925,714円です。
全調理食品のランキングでは、2位浜松市(137,040円)、17位宇都宮市(122,247円)、37位宮崎市(107,857)、全国平均115,754円となっており、浜松市は調理食品消費の延長線上に餃子もあると言えますが、宮崎市はとにかく餃子の支出だけが突出しているのです。
前々回「(元々ポテンシャルの高い市町村であれば)頑張ればそれなりの数字が反映される」と書いたのはこのことでして、統計を動かすには日常を支配するような影響力が必要で、それを支えるポテンシャルが宮崎市にはあった、ということなのでしょう。

かつて宇都宮市の関係者が家計調査の数字から町おこしを思いついたように、宮崎市の誰かがこの数字に気づき、日本一を目指すことが可能と判断したのではないかと想像します。宇都宮餃子会、浜松餃子学会に対して2020年に宮崎市ぎょうざ協議会が設立されます。宮崎県はキャベツが高鍋町で生産量トップ、豚の飼育頭数が全国トップクラス(協議会WEBサイト参照)であり、県内の農畜産業を挙げての町おこしを目指していることが大きな特徴です。

宮崎市は初の日本一の栄冠に驕ることなく、翌22年にはコロナ禍にもひるまず宮崎ぎょうざEXPOを開催、毎月3日を餃子の日として消費を喚起するなどの努力を重ね、2連覇を成し遂げました。かつての宇都宮、浜松のそれを彷彿とさせるものがあります。町おこしとしての餃子の街はビッグツーからビッグスリーの時代に入ろうとしているようです。

家計調査は全国の世帯の消費実態を知る上で大いに活用可能な統計データであることは言うまでもありませんが、餃子消費額の都市別集計が餃子の街の優劣を示す客観的な数字でないことはこれまで述べてきたとおりです。しかし、我々はこのランキングを面白がり、日本一を競う当事者もそれを承知の上でこの結果と付き合ってきました。
来年の2月にも家計調査の結果が発表され、どの都市が日本一になったかが報じられるはずですが、こうした文脈を知った上で報道に接するとより一層味わい深くなるのではないでしょうか。