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軽井沢と大字軽井沢、旧軽井沢と新軽井沢(住所雑学シリーズ19)

避暑地、別荘地として有名な軽井沢ですが、この地域はひと癖ある地名・地域名が並ぶところとして住所処理業界では有名です。
まず軽井沢町には「大字軽井沢」と「軽井沢」という地名がそれぞれ存在し、それぞれに違う郵便番号(「389-0102」と「389-0103」)が振られています。さらに「旧軽井沢」「新軽井沢」という通称名が存在することが事体をややこしくしています。分かりやすく親しまれるはずの観光地でなぜこんな複雑なことになっているのでしょうか。

まず通称「旧軽井沢」「新軽井沢」を先に片付けてしまいましょう。そのためには軽井沢の歴史を少し知っておく必要があります。江戸時代の軽井沢は軽井沢村であり、中山道の軽井沢宿でもありました。軽井沢宿は碓氷峠を越えた佐久平の北東部(浅間山の南東麓)に位置し、大変賑わっていました。しかし明治16年(1883)に国道が開通(現在の国道18号)、更に明治26年(1893)に信越線碓氷峠トンネルが貫通し官設鉄道の軽井沢駅が完成します。軽井沢駅は軽井沢宿から南へ1.5km程度の距離ですが、信越線と国道はほぼ並走状態で敷かれており、軽井沢宿は交通路としては完全にスルーされてしまいます。江戸期には100軒以上あった宿場町は30軒にまで激減し、ゴーストタウン寸前にまで寂れてしまいました。ところがカナダの宣教師アレクサンダー・クロフト・ショーが療養で訪れた際にこの地域の気候と軽井沢宿周辺に魅了され、別荘と教会を立てたことで状況が一変します。これがきっかけで外国人と国内富裕層の避暑地として別荘・ホテルが次々に建てられ、昭和11年(1936)には軽井沢町全体で別荘数千戸を超えるまでに発展しました。

旧市街地(元宿場町)と駅の設置場所とで地域内に格差が生ずることは地方都市でよくあることですが、観光地として再生した旧宿場町と玄関口としての駅周辺とで軽井沢は両者がそれぞれ繁栄を維持してきました。その結果、旧中山道(現・県道133号)軽井沢宿周辺が「旧軽井沢」、国道18号沿いの駅周辺地域が「新軽井沢」と呼ばれるようになり、観光的な区分を示す通称名として定着しています。

では「大字軽井沢」と「軽井沢」はどうでしょうか。大雑把にいうと、まず旧軽井沢村≒「大字軽井沢」となります。これは近代以降町村が合併して行く際の江戸時代のムラが大字になるパターンと同じです。(参考:志布志市志布志町志布志(住所雑学シリーズ1)
「旧軽井沢」も「新軽井沢」も元は軽井沢村ですので、(大字抜きの)「軽井沢」≒「新軽井沢」か?などとと想像しがちですが、両者はレイヤーとしては全く重なりません。実はその逆で、旧軽井沢の一部中心地域が(大字抜きの)「軽井沢」となっています。下の略地図をご覧ください。

実線が行政区分上の境界線とその地名です(実際の「大字軽井沢」はもう少し北に広いですが略図ということでご了解ください)。点線が新旧軽井沢のそれぞれの区域となります。元はすべてが「大字軽井沢」だったのですが、昭和46年(1971)に旧軽井沢地区の中でも最も中心的な地域(軽井沢駅から直線で北に伸びる軽井沢本通りと旧中山道の結節点周辺)が区画整理事業によって「大字」が外れた「軽井沢」に、昭和48年(1973)に新軽井沢地区の中で軽井沢駅前(軽井沢駅は含まない)の地域を「軽井沢東」としました。
「大字〇〇」だった地域の一部が区画整理で「〇〇」となり、地域名が並立する例はよくありますが、ここもそのパターンと考えてよいでしょう。ただ厄介なのは、「軽井沢」はすべてが住居表示化された街区となっていない上に飛び地まで存在するという実にややこしい状態になっています(「軽井沢東」も街区化された地域とそうでない地域が混在しています)。そんな(大字抜きの)「軽井沢」の街区番号を図にすると以下のようになります。

 

街区番号は「12」まで作られています。このことから、誤った「大字」表記省略の可能性を見分ける対策として以下のことが言えます。
①「軽井沢」と書いてあって次の数字が「12」以下の場合は街区番号である可能性が高い。しかし、「大字軽井沢」にも「12」以下の地番があるため断定はできない。
②「軽井沢」と書いて次に「13」以上の数字があれば「大字軽井沢」のことである可能性が高い。しかし、一部に残る「軽井沢」地番地域の可能性もあるため断定はできない。
③「大字軽井沢」と書いて「13」以上の数字であればほぼその通りで間違いない。「12」以下の場合は微妙だが、わざわざ「大字」と書いてあるのであれば表記を尊重するしかない。

100%見分ける方法がないのは他の難判別地域と同じですが、こうした成立経緯を知っていると、混乱はかなり緩和できますし、(大字抜きの)「軽井沢」の殆どはお店か企業の施設ですので、宛先名も併せて確認すれば大抵のものは判別できるはずです。

なお、軽井沢町(公式)が町内の地番の概要を説明していますので、併せて参考にしてみてください。
軽井沢町住所地番の概略
https://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1001000000483/index.html

<参考文献>
『日本地誌 第八巻 長野県・山梨県・静岡県』日本地誌研究所(1972.2.15)
『長野県の地名 日本歴史地名大系第20巻』平凡社(1979.11.25)
『角川日本地名辞典20 長野県』角川書店(1990.7.18)
『軽井沢町誌 歴史編(近・現代編)』軽井沢町誌刊行委員会(1988.3.31)
『軽井沢町誌 民俗編』軽井沢町誌刊行委員会(1989.3.31)