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地番しかない地名(住所雑学シリーズ2)

こんにちは、エニイ住所ヲタ担当のK又です。前回に続いて階層化される住所について書いてみたいと思います。

市役所住所「いきなり地番」間違いない? 変更に1億
https://www.asahi.com/articles/ASL694J26L69UJHB004.html
[朝日新聞]2018年6月27日

という記事が先日新聞に載りました。龍ケ崎市の市役所の住所が「龍ケ崎市3710番地」と、市名のあとにいきなり地番があるため、間違いではないかと誤解されることが多い、という内容です。
記事にもあるとおり、もともと字(あざ)とは江戸時代の村の一つ一つが近代の町村制に編成される際にその単位(大字)として残った地域名です。そして旧龍ケ崎町は大字なしで編成されてしまったため、龍ケ崎市になった際もそのまま「いきなり地番」になってしまったということです。

ところで、この市町村名以下直接地番というのは全国にどのくらいあるものなのでしょうか。郵便番号簿に「~の次に番地がくる場合」および直接地番を指定しているものを探すと全国19市町村が検出されます。
具体的には、茨城県猿島郡境町、山梨県北都留郡小菅村、長野県岡谷市、東筑摩郡生坂村、岐阜県美濃市、不破郡垂井町、静岡県下田市、兵庫県三田市、和歌山県西牟婁郡白浜町、広島県安芸郡坂町、香川県綾歌郡宇多津町、仲多度郡琴平町、愛媛県八幡浜市、高知県吾川郡いの町、福岡県福津市、長崎県島原市、西海市、大分県中津市、大分県速見郡日出町、となります。

龍ケ崎市がありませんね。そうなのです。郵便番号簿にあるのはあくまでも郵便番号が割り振られている場合の直接地番であって、龍ケ崎市には番号が付与されていないのです。つまり龍ケ崎市の直接地番地域の郵便番号は「以下に掲載がない場合」と記載される末尾が”00”の地域(301-0000)にあたるのです。

ちょっと待て、と思われた方もいらっしゃるでしょう。さきほどの新聞記事、もしくは龍ケ崎市役所のホームページをみれば郵便番号は「301-8611」って書いてあるじゃないか、と。
そのとおりです。龍ケ崎市役所に郵便番号はあります。しかしそれは市役所専用に指定された個別郵便番号で、龍ケ崎市直接地番全域を指した特定の郵便番号ではないのです。
では、他の龍ケ崎市直接地番地域にお住まいの方や各施設はどう名乗っているのでしょうか。たとえば竜ヶ崎第二高校のホームページを見ると、住所がこのように表記されています。

〒301-0834 茨城県龍ケ崎市3087番

直接地番なのに末尾”00”でない郵便番号があります。この郵便番号「301-0834」は郵便番号簿では「龍ケ崎市古城」という地域を指しています。変ですね。
実は「古城」という地域はかつての小字がそのまま通称名として使われており、それが郵便番号7桁化の際に採用された、という流れがあるのです。
それらの細かい経緯については龍ケ崎市のホームページに次のような説明があります。

町名の無い「龍ケ崎市○○○○番地」の住所表示について-大字・町名の誕生契機-
https://www.city.ryugasaki.ibaraki.jp/shisei/gaiyo/gaiyo_yomimono/2013081601132.html

町名の無い「龍ケ崎市○○○○番地」の住所表示について-小字は省略される-
https://www.city.ryugasaki.ibaraki.jp/shisei/gaiyo/gaiyo_yomimono/2013081601149.html

つまり市としては、小字は省略できる(実際市内の他の大字地域も小字は指定されていない)からそうしたが、通称名を名乗ること自体は利用者の自由、ということなのです。そして郵便番号は利便性を優先してかつての小字ごとに番号が当てられたため、先ほどご紹介した高校(公立)は住所を直接地番で表記しつつも郵便番号は割り振られたものを示す、という表現を取っていると推察されます。
ややこしいですね。因みに龍ケ崎米町郵便局という配達局があり、こちらも行政の立場から表現すると直接地番地域ですが、勿論「〒301-0018 茨城県龍ケ崎市米町4552-2」と名乗っています。

直接地番は全国にどのくらいあるか、に話を戻します。龍ケ崎市と同じパターンで固有の郵便番号簿は割り当てられていない直接地番がある現存の市町村は、筆者が確認した限りでは、北海道樺戸郡月形町、樺戸郡浦臼町、雨竜郡雨竜町、埼玉県本庄市、山梨県南都留郡道志村、北都留郡丹波山村、長野県諏訪郡下諏訪町、諏訪郡原村、下伊那郡喬木村、静岡県三島市、大阪府泉佐野市、奈良県磯城郡田原本町、島根県隠岐郡知夫村、広島県安芸郡熊野町、福岡県田川郡糸田町、熊本県球磨郡湯前町、大分県佐伯市があげられ、計18市町村になります(他にもその可能性がある市町村があるのですが、地図などで確認できたものに限っています)。
この両者を足すと計37の市町村となり、直接地番地域が意外と多いことが分かります。
前回は階層化(履歴化)され過ぎる住所のことについて書きましたが、その反対に変化の過程が全て省かれることもある例を今回ご紹介してみました。
一見誤りに見える表記の住所でも、そう判断する前に確認すべきことというのはあるものなのです。