エニイのブログ

【本のご紹介】『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

2018年10月16日 データマネジメント

こんにちは、K又です。今回は本のご紹介をしたいと思います。
先日、NHKで「マネー・ワールド~資本主義の未来~仕事がなくなる!?」という番組をやっていました。爆笑問題の司会で3回に分けて資本主義の行方について特集したものの2回目(10月7日放送)で、AI・ロボットの発達で我々の仕事が奪われるの可能性があるのではないか、というものでした。ご覧になった方も少なくないでしょうし、昨今よく話題になるテーマですので、内容は大方想像がつくかもしれません。
私も最初は何となく番組を眺めていたところ、数学者の新井紀子さんが、一緒に出演していた大手通信・ネット企業の代表を前にして「資本家が実際に仕事を奪われる人に対して『それは気持ちの持ちようだ』とか『もっと気持ちを明るく持て』いうのは無責任」と堂々と言い切ったので、ちょっとおっ、となってしまいました。資本主義云々については私の手に負えるテーマではないのでそこは言及しませんが、この回の番組テーマはAI社会にについてですので、仕事が奪われる原因のひとつがAI・ロボットであることが前提になっており、その観点から新井さんの発言の真意を汲み取ってみたいと思います。

新井紀子さんは「ロボットは東大に入れるか」(東ロボくん)プロジェクトを進めた方として有名で、今回ご紹介する新井さんの著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』もそのプロジェクトを通して得られた知見によって書かれています。
東ロボくんプロジェクトは人工知能に東京大学に合格できるだけの能力を身につけさせることを目標に、2011年から2016年まで行われました。残念ながら東大合格レベルまでは無理でしたが、いわゆるMARCHレベルの私立大学であれば合格できる偏差値までは到達することができました。
このプロジェクト、目標は東大合格でしたが、最初からその大目標が可能とは誰も考えておらず、AI・ロボットにできることとできないことを解明することが真の研究目的だったのだそうです。新井さんはAI万能論的な明るい未来にも、いわゆるシンギュラリティなどによってAIが支配するディストピア社会の到来にも否定的です。それは人間の知的活動全てを数式に表すということそのものに(数学の)限界があり、AIは神にも征服者にもなり得ない、と考えているからです。
では、AI恐るに足らぬという楽観論でいるかというとその逆で、東大は無理でもMARCHレベルであれば対応できてしまうというこの湯加減が人間社会に深刻な影響を及ぼすのではないか、と考えていることが著書を読むと分かってきます。
新井さんはこの東ロボくんプロジェクトと同時並行で日本人中高生の読解力の調査・分析を行いました。そして教科書程度の文章を正確に理解できていない学生が少なくないことを知り新井さんは愕然とします。それはAI技術と平均的な社会人一般の実力のバランスが崩れつつあることを示しているからです。
いきなり結論めいたことをご紹介していますが、これはまだこの本の冒頭部分をまとめただけで、ネタバレにはなっていませんのでご安心ください。

少しだけ内容に触れてみますと、検索窓やスマートスピーカーなどに「近くにあるまずいイタリア料理店」と聞いても「おいしいイタリア料理店」とあまり変わらない結果が出ることは想像つきますね。「近くにあるイタリア料理以外のお店」と聞いても似た結果になることでしょう。これは現在の情報検索技術は人間の発する言葉(自然言語)を正確に理解することを放棄していることを示しています。
対して人間の読解力調査、リーディングスキルテスト(RST)の結果を見ますと、文章を正確に読めば解答が得られる(知識は問うていない)にもかかわらず、スマートスピーカー同様、キーとなる単語だけを見て、「まずい」「以外の」などの部分を読み飛ばしているとしか思えない間違い方が目立つのだそうです。本書の「教科書が読めない子どもたち」というタイトルの意味はこういうことだったのです。
そして冒頭にご紹介したNHKの番組で新井さんが発した「無責任」という言葉に戻ると、その深意が推し量れはしないでしょうか。我々に求められるのはAIの利点を正しく認識し、正しく恐れる(ただし恐れるのはむしろ人間自身の問題か)ことなのだな、と感じさせてくれる一冊であり、テレビでのご発言でありました。

因みに、この本でも紹介されていますが、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏による「雇用の未来」(2014年)という論文に10年後にAIの普及によって無くなる仕事、というリストがあります。これの第4位が「コンピュータを使ったデータの収集・加工・分析」となっています。RPA(Robotic Process Automation)が広まりつつある現在、それらに近い業界に身を置く者としては全く笑えません。AI技術とどう付き合うかを正確に見極めなければ生き残れない時代がすぐそこまで来ているのだな、とひしひしと感じています。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)新井紀子 著
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