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祇園精舎のJISの文字は諸行無常の響きあり その2(住所雑学シリーズ16)

前回「祇園」の「祇」の字の偏の部分の「ネ」と「示」の違いについてご説明しましたが、今回はつくりの「氏」についてです。
実は「祇」とそっくりな字「祗」が存在します。つくりをよく見てください。「氏」でなく「氐」。下に下線があるのです。
字形は酷似していますが両字の字義は違います。「祇」は、くにつかみ、地神を意味し、「祗」はつつしむ、という意味の字です。「氐」は「低」「抵」「底」「邸」などのつくりに使われており、下の傍線の意味がなんとなく推し量れるのではないでしょうか。

前回も書きましたが、人が漢字を利用する過程で誤字が定着し異体字化することがありうるように、似た字を誤用して定着することも十分ありえます。さらにこの紛らわしい「祗」という字、音は「シ」と読みますが、JISの第二水準に存在します。これも前回書きましたが、以前の「祇」のフォントが「ネ氏」であった関係上、字形が似ている「祗」を使用してしまう場面が過去にあったであろうことは容易に想像がつきます。

因みに今ご利用のPC、スマホ、タブレットで「ぎおん」とちょっと入力してみてください。変換候補に「祇園」「祗園」の両方が出ますよね。何というトラップ!と怒ってはいけません。実は「祗園」が正しい地域もあるのです。どうしてそうなったかは各地域で様々ですが、固有名詞に関しては誤用も定着してしまえば正字になってしまうのです。

では具体的にどの字がどのくらい使われているのか、ですが、『現代日本の異体字-漢字環境学序説-』(2003年・三省堂)の第2章に「地名の異体字」(笹原宏之)という節が設けられており、そこにまとめられています。同書の調査で使用したのは「日本行政区画便覧データファイル」(日本加除出版)、弊社でも利用しているものです。採用理由は電子化方法が明示されており、殆どの自治体の住民課で使われている実績、そして比較的安価、ということです。しかも「外字あり版」というオプションがあり、異体字調査にはうってつけの内容なのです(すいません、宣伝という訳ではありませんが、まあそういう気持ちもちょっとあります)。

出典明示した上での引用の範囲内かと思いますので、笹原先生の学恩に感謝しつつここにその使用数をご紹介します。
「ネ氏」29
「祇」22
「ネ氐」5
「祗」5
「衤氐」1
4種類は組み合わせ上想定されていたかと思いますが、まさかの「衤氐」まであって5種類。「祇」と「祗」は字義が違うため異体字の種類としては正確には合算できませんが、合わせてしまうと、5種類は「崎」の7種類に次いで「竈」の5種類と並びます。地名文字問題の「ややこしさの三本指」と前回書いた理由がお分かりいただけましたでしょうか。
ところでこのブログの表題で「JISの文字」と言っていますが、今回は「衤」「氐」とユニコードを多用させていただきました。我々は長い間JISコードに縛られていましたが、そろそろそういう時代ではなくなってきているのかもしれません。

ウンチクとしてはこれで終わりですが、字の混在ぶりの実例を取材してありますので次回ご紹介します。(つづく)