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京都と学区(住所雑学シリーズ13)

こんにちは、前回、京都の通り名についてご説明しましたが、今回も京都についてお話します。
今年2020年は国勢調査の年です。5年ごとに行われ、特に西暦年の末尾「0」の年は大規模調査が行われます。国勢調査の最も基礎となるものは人口調査ですが、町丁目(大字・小字)単位で集計されたものが公表されます。
この国勢調査で町名表記が複雑な京都市の町名はどのような単位構成で整理されているのでしょうか。
京都の国勢調査データをざっとみるにはここが手っ取り早いので、ここからダウンロードしてみましょう。
https://www2.city.kyoto.lg.jp/sogo/toukei/Population/Census/2015/index.html
ここの「7 小地域集計(国勢統計区 及び 町丁別)」からデータをダウンロードすると、住所は「都道府県名」「市区町村名」「大字・町名」「字・丁目名」で区分されていることが分かります。眺めてみると、「大字・町名」部分に全く聞き慣れない文字列(概ね1~3文字の漢字)がセットされていることに気づきます。住所部分だけを見てみると、図のようになっています。
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都道府県名、市区町村名、ときて、次の項目に一律「待賢」という文字列がセットされていますが、京都市の地名では全く耳にしない名称です。そして我々が京都市の町名として馴染みのある名称はその次の「字・丁目名」の項目に入っています。これは一体どういうことなのでしょうか。
因みに上京区には、「嘉楽」「乾隆」「京極」「滋野」「室町」「出水」「春日」「小川」「仁和」「成逸」「正親」「西陣」「待賢」「中立」「桃薗」「翔鸞」「聚楽」と17種類の謎の文字列が並んでいます。
初めて京都の国勢調査データを触ったとき、これらの文字情報が全くの???で、どう処理していいのかさっぱり分かりませんでした。その時、たまたま読んでいたのが、地図・地名研究科として有名な今尾恵介さんの『住所と地名の大研究』でした。地理・地名マニアで本書を知らない人はいないでしょうし、このブログで披露している私の知識もこの本にかなりお世話になっている名著です。
この本の「京都の住所」の章を読んでいるときに思わず「あっ!」っと叫んでしまいました。私の知りたかったことがそこにあったのです。
今尾さんは京都市の地番を調べていたときにそのナンバリングパターンに町を超えたもうひとつ大きな枠組みを見出します。それは「学区」でした。ここでいう「学区」とは、明治2年に京都の町衆が政府に頼らずに作った小学校の地域区分のことで、この区割りによって編成された小学校を「番組小学校」呼びます。この「番組」とは江戸時代の「町組」という住民自治組織が元になっているものです。学区と番組小学校の詳細については今尾さんの本や下記Wikipediaなどご覧になってください。

京都の学区
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E3%81%AE%E5%AD%A6%E5%8C%BA
番組小学校
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%AA%E7%B5%84%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1

話を国勢調査に戻しますが、前掲の今尾さんの本を読み、学区が地番のナンバリングの単位になっているということは、町域判別の中間的な単位(大字的なもの)にもなっているのでは?と私は考えました。前回の住所雑学で京都市には同じ区の中で同一町名が数多くあるため通り名がないと判別がつかない場合があるとご説明したとおり、市・区・町名の文字列だけではユニークが取れないのです。
そこでこの学区が間に入っている国勢調査データの住所項目で重複があるか調べたてみたところ、ありませんでした(中京区「西大文字町」と「東大文字町」の東西表記が省略されたための重複はのぞく)。つまり現在の京都市の区は現在の行政都合の編成であって、学区(番組)単位であれば町名はそもそも重複などしていなかったのです。
因みに前回取り上げた「京都市」「中京区」「亀屋町」で検索すると、「大字・町名」項目に「柳池」「本能」「梅屋」「竹間」「富有」という文字列がそれぞれ入ったレコードが5件検出されます。
この学区は現在も実際の小学校の学区としても概ね存続されているため、そうした区分けとしてはある程度市民にも馴染みはあるようですが、地域名として利用されることはありません。にもかかわらず国勢調査で「大字・町名」編成されているのは、町名重複を放置する訳にはいかないものの、通り名ではデータ上の適切な区分けはできないため、事実上の大字区域に相当する学区が使われているのではないかと思われます。
それにしてもよそ者を容易には寄せ付けませんね、京都という町は。